告白/中学生流川編
by 宮沢さとり
「す、好きです」
一世一代の大告白だ、とでも言うように女の子が顔を赤らめて、声を振り絞るようにしてそう言った。
聞かされた流川楓はといえば、
「ふーん」
と、ただそれだけ。そして、スタスタと歩き去った。
一生懸命告白した女の子は、何の反応も得られずに無感動に立ち去られて、絶句するよりほかはなかった。
「……見たわよ」
呼び出された体育館裏から更衣室へと向かう途中、知った声がそう話しかけてきて、流川は足を止めて、声の主を見た。
「……彩子先輩……」
物怖じしない性格の彩子は、常に仏頂面の流川に平気で話しかけられる、珍しい女生徒だった。今回も「告白シーン」なんてものを見たのをよいネタに、流川をウリウリと小突いて訊いた。
「けっこう可愛い子だったじゃなーい。やるわねー。確かに顔はいいもんねぇ、あんた。……で、どうすんのよ、返事は?」
「言ったけど……?」
あっさりそう答えた流川に、告白の一部始終を見ていた彩子は慌てた。どう考えても返事にあたる言葉を流川は言ってない、と思う。
「ええっ?なんて???」
彩子がそう訊くと、流川は答えて言った。
「『ふーん』」
……彩子の力が抜けたのは当然だろう。確かに流川は「ふーん」とは言ってた。しかし……。
「あんたねぇ、『私、カレーが好きなの』『ふーん』ってレヴェルの話じゃないんだから……。流川楓が好き、と言われて、『ふーん』はないでしょ、『ふーん』は」
それも、それで返事が済んでると思ってる辺り、非常に問題だ、と彩子は思う。
「……カレーが好きなのと、どこが違うんすか」
真面目にそう問われて、彩子の力はますます抜けた。
「あのねぇ……」
しかし彩子にいくら言われても、カレーが好きなのと流川楓が好きなののどこが違くて、「ふーん」がなぜ返事にならないのか、さっぱり理解できない流川なのだった……。
流川に「恋」という感情がわかるようになるのは、一体いつのことやら……。