告白・中学生編
by 宮沢さとり
それは桜木花道がまだ一年生で、身長もまだ170センチ程だった頃のこと。
中学に入ってそう間もないにもかかわらず、既に数名の女の子に一目惚れし、告白し、フラれていた花道は、フラレ大王の名をほしいままにしていた。
そしてある土曜日。半ドンであったが、授業終了後も校内でだべっていた桜木軍団は、夕方になって、ようやく帰るべ、と腰を上げた。
靴を履き替えて、校舎を出、体育館の前を横切って校門へと向かう途中──体育館から見慣れないジャージを来た人間が一人、出て来た。
「……そういやあ、バスケ部は今日、練習試合なんだっけ?確か富ヶ丘中と……だったかな」
情報通の水戸洋平がそう呟いた。
一人先に帰る用事があるのか、すたすたと体育館を後にしたその子は、花道と同等の身長を持つ細身の長身で、真っ直ぐで真っ黒な髪をショートカットにしていた。バスケ部に所属しているだけあるさっぱりした髪型だ。
「……美人だなあ……」
野間がそう呟くだけのことはある、綺麗な顔立ちをしていた。
「……花道の好みのタイプなんじゃねえ?」
ぼそりと呟いたのは高宮である。はっとして桜木軍団は、恐る恐る花道の顔を覗き込んだ。
ガラガラガッシャーン
時既に遅く。花道には恋の雷鳴が落ちていた。
他校の人→ではここを逃したらもう会えないかも。そういう短絡的な発想により、これまでよりも更なる超特急で、桜木花道は告白に走った。──その後を慌てて桜木軍団も追った。
校門の手前で、その人に追いつけた桜木花道は、目の前に回り込んで叫んだ。
「す、好きですっ!」
ほぼ同じ位の身長のため、前に立つと視線がばっちり合う。真っ赤になってそう言った花道を、慌てず騒がず冷静に見返したその人は、一言、
「ふーん」
と言い……、そうして花道の横をすりぬけて、校門から出ていった。
残された花道は、この出来事をどう解釈していいのかわからない。若干離れたところから(普段なら近くの植え込みや木々の影から、こっそりと覗きをするのだが、花道が周囲の目も気にせずに堂々と、しかも超特急で告白に走ったため、隠れる暇すらなかった)一部始終を見届けた桜木軍団にしたところで、解釈に困る出来事ではあった。
「で、でもなあ」
「うん」
「やっぱり、これは……」
「フラレ……たんだろうなあ……?」
しからば、と、彼らは常備しているクラッカーなどのお祝いグッズを持ち出して、花道のことを囃し立てた。
「おめでとう!花道!!フラれ続けてm人目!!」
「この調子で記録を伸ばしてくれ!」
いつもならここで、四人は花道の頭突きという報復を受けるところだが、今回の花道は違った。じろっと軍団の面々を見たものの……、はぁっとため息をついて、そのままとぼとぼと校門から歩き去った。
「は、花道ぃ」
あまりにもいつもと違う様子に、桜木軍団は困惑する。
「……本気だったのかなあ……」
いつもいつもすぐ惚れてはすぐフラれ、そうしてまたすぐに惚れるので、桜木花道の恋を本気だと認識したことは、実はあんまりない桜木軍団だった。今回もあまりにも早い惚れ方だったので、本気などではあるまいと思ったのだが……あまりに落ち込みが激しすぎる。いつも囃し立てれば怒りのあまり復活するのに。
「本気の一目惚れだったのかねえ……」
「ま、確かに、モロに花道の好みのタイプではあったよな」
いつになく傷心度合いの大きかった花道は、普段なら二週間に一度のペースで次の人に惚れるところを、この時ばかりは一ヶ月以上、誰にも惚れなかったという……。
そうして。この時花道が告白した相手が、実は男であり、三年後に再会するなどということは、この場にいた誰もが未来永劫気がつくことのないことであった……。