眠れぬ夜の特効薬
by 宮沢さとり
花道がリハビリのため、湘北の練習に顔を出さなくなって数日──流川は変な気持ちがして仕方がなかった。うるさくて邪魔なだけなやつと思っていたのに、いないとなると物足りないらしい。
練習が物足りないのは他の部員も同様らしかったが、流川はそれだけではなく、夜にもまた寂しさが募った。
傍らに花道の存在がない。気配もない。匂いもない。──心が花道に飢えていた。
一度気にすると、気になって寝付けなくなる。眠るのが趣味な流川だというのに。……流川はため息を一つついて、ベッドから抜け出した。
洋服ダンスの扉をあけると、そこに夏にはそぐわないものがあった。冬服の制服。……花道のだ。以前に泊まった時に忘れていって、そのまま衣更えになったため、流川が預かったままになっていたのだ。
見るからに暑苦しいそれを、流川は取り出すとそっと抱きしめた。
「……どあほう……」
密やかに呟いて、そしてそれを持ったままベッドに戻る。
うっすらと未だに残る花道の匂いが、流川を安眠に導いた──。
後日。衣更えシーズンにようやく復帰した花道が、冬服を流川に求めると、出てきたのはぐしゃぐしゃになった制服だった。
「人の服をどう扱ってるんだ!てめーは!」
と怒った花道に、流川は平然と、
「てめーがいねーのが悪い」
と言い返したという……。