眠れぬ夜の特効薬

by 宮沢さとり

 花道がリハビリのため、湘北の練習に顔を出さなくなって数日──流川は変な気持ちがして仕方がなかった。うるさくて邪魔なだけなやつと思っていたのに、いないとなると物足りないらしい。
 練習が物足りないのは他の部員も同様らしかったが、流川はそれだけではなく、夜にもまた寂しさが募った。
 傍らに花道の存在がない。気配もない。匂いもない。──心が花道に飢えていた。
 一度気にすると、気になって寝付けなくなる。眠るのが趣味な流川だというのに。……流川はため息を一つついて、ベッドから抜け出した。
 洋服ダンスの扉をあけると、そこに夏にはそぐわないものがあった。冬服の制服。……花道のだ。以前に泊まった時に忘れていって、そのまま衣更えになったため、流川が預かったままになっていたのだ。
 見るからに暑苦しいそれを、流川は取り出すとそっと抱きしめた。
「……どあほう……」
 密やかに呟いて、そしてそれを持ったままベッドに戻る。
 うっすらと未だに残る花道の匂いが、流川を安眠に導いた──。

 後日。衣更えシーズンにようやく復帰した花道が、冬服を流川に求めると、出てきたのはぐしゃぐしゃになった制服だった。
「人の服をどう扱ってるんだ!てめーは!」
と怒った花道に、流川は平然と、
「てめーがいねーのが悪い」
と言い返したという……。

[コメント]

  初出:98年7月 某チャットルーム
  再掲:98年11月 chmod 600 ちらし 後の祭り号

えいみさんに捧ぐ。
何故ならえいみさんちである不幸な事件が起きなければ生まれなかった話だから……(^_^;。
煩悩提供のななおさんにも多謝。