銀世界
by 山崎オーラ様
「オ、オ、オ、オレはだなぁ、て、てめえが新しいバスケット
コート、見つけたってゆーから、来てやったんだかんなっ!」
真っ赤になって、そう怒鳴るから、ふーん、とだけ云って
部屋に通す。
「て、てめえと一緒に行かねえと場所が解んねぇから、
し、仕方なくだかんなっ! だ、大体、んなに早く行かねえと
取られちまうよーなんがいけねーんだっ!」
最近、近くに出来たストリートバスケのコートは
地面がちゃんと舗装されていて、凄く使いやすそうな反面、
何時行っても子供が屯している。
だけど、夜明直ぐに行けば、いくらなんでも人はいないだろう。
「だ、だ、だ、だからなぁ、こ、これは断じてオレの意志では……
って、キツネ〜! なななななんで、オレ様の布団に
入って来るんだぁ〜っっっっっ!」
俺のベッドにてめーがいるからに決まってんじゃねーか、
どあほう…。
「ふぬ〜っっ! なななんで、そそそそそんなに
ひっつくんだ〜っっっっ!」
………あったけーから………。
どあほうはいつもギャーギャー喚き散らす。
折角、理由だって作ってやってるのに。うるせーったら、ねー。
「て、てめーが、んなにひっつくから…悪ぃーんだぞ…
…寝腐れギツネめ………」
その云葉を聞けば、いつもゆっくりと降りて来る唇。
デカイ手が、髪の毛をぐしゃってして、慌てて指先で
梳いてくれる。
「ルカワ……」
掠れた声で囁かれるのは、悪くねー。
勝手に心臓がドキドキしてくるから、気持ちイーのかも知んねー。
息が苦しくなって、何時の間にか腕が奴の背中をぎゅって
するから…。
「起きたら、一緒にバスケしよーな」
裸の胸に鼻先を擦りつけると、そんなことを云った。
………嬉しかった。
だけど、朝起きたら布団の隣が冷たくなっていた。
慌てて飛び起きて、あたりを見廻す。
「……いねえ…」
隠されていた窓の隙間から差し込む光りが妙に明るい。
呆然としながら、カーテンを開けた。
「……………!」
覘く外の世界は雪景色。
何時の間に降ったのか、晴天の朝陽にキラキラ光っていた。
大急ぎで服を着込んで、外に飛び出す。
道にも雪が積もっていたから、バスケは出来ないだろうけど、
しっかりボールは抱えて走った。
『起きたら、一緒にバスケしよーな』
どあほうがそー云ってたから…。
ザッザッザッザッ…。
銀世界の中のバスケットコート。近づくにつれて、
雪をかく音が聞こえる。
「おせーぞ! キツネ!」
足を踏み入れた途端に浴びせられる、怒鳴り声。
四角く雪が除けられたバスケットコート。
銀の世界をバックに、揺れる赤い髪が鮮やかで……。
「……どあほう」
駆け寄って抱きつく躯が酷く冷たい。
「わっ! アアアアレだかんな。て、て、てめーが、バ、バスケ
してえってゆーだろーと想ってだな、いや、町内会の
ミナサマのためにだなぁ、オレ様が……」
そこまで聞いて、唇を重ねる。
ぎゅって背中を抱いてくれる腕が嬉しかった。
「……ココ、なんで知ってんだ、どあほう」
「へん! てめーの考えることなんかお見通ーしだ!」
「……なんで、起こさねー」
「てめーが寝てたんだろーが、寝惚けキツネめ!」
「………バスケする…」
「バカめ。もちっと乾いてからだ! 濡れんだろーが!」
「…………じゃあ…」
冷えきってしまっていたどあほうの手を掴んで
上着のポケットに突っ込んでぎゅっと握る。
その侭、自販機の前まで引っ張って行って、缶コーヒーを買った。
「もう一時間ばっかすりゃあ、バスケ、出来っからよ…」
唇を尖らせてソッポを向くのに小さく頷いて、熱いコーヒーを
一本づつポケットにしまって、もう一度重ねた手でぎゅって
したら、胸の奥までほんわかと温かくなったから吃驚した。
おしまい